2011年の東日本大震災をきっかけに岡田利規の演劇観は「フィクション」の有効性を探求することへと舵を切り、社会の中の緊張感や断絶を寓話的に描いた「現在地」(2012年)と「地面と床」(2013年)を発表しました。『部屋に流れる時間の旅』では、ふたたび震災後の社会背景を主題としながらも、社会での断絶が生じる以前の個々人の心の葛藤や恣意的な感情をきわめて細密に見つめ、拡張し、これまでにない新たな表象を舞台上に立ち上げます。
震災直後の人々にわき起こった想いのなかには、哀しみや不安だけではなく「世の中が良くなる」という希望も混ざっていました。そのような未来への希みを持ったまま死を迎えた幽霊が紡ぐ純粋な希望の言葉に、もはや希望を持つことなど不可能に思える今を生き続ける生者は苛まれ、耳を塞ぎ目を背けたくなります。こうした不可視の心の葛藤や苦しみが、これまで以上に強度を増した岡田の言葉と俳優の身体を通して、現代美術家久門剛史による微細な気配のにじむ音・空間と緊密かつ多層的な関係を結び、まるで感情を聴き手に取ることができるかのような情景として表れ、観る者を揺さぶります。
言葉/身体/音/空間それぞれの精緻なアプローチが舞台上で一体となり迫るとき、観客それぞれに記憶や体験と向き合う時間がうねりをもって押し寄せることでしょう。
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https://theatreforall.net/movie/ground-and-floor/
英語字幕あり
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[作・演出]岡田利規
[初演年]2016年
[上演時間]約75分
[キャスト数]3人(男1女2)
クレジット
[作・演出]岡田利規
[音・舞台美術]久門剛史
[出演]青柳いづみ、安藤真理、吉田庸
[舞台監督]鈴木康郎
[音響]牛川紀政
[照明]大平智己(ASG)
[衣装]藤谷香子(FAIFAI)
[演出助手]柳雄斗
[宣伝写真]川村麻純
[フライヤーデザイン]佐々木暁
[国際共同製作]
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