2004年に上演された30分の短編デュエット「クーラー」はその独特な動きがダンス的と評価され、2005年7月の「Toyota Choreography Award 2005-次世代を担う振付家賞」の最終選考会にノミネートされた。「チェルフィッチュ」独自の身体性は、振り付けに対する明確なコンセプトを提示し、コンテンポラリーダンス・シーンに驚きと衝撃を残した。『クーラー』を70分の作品に再編した本作『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』は、ベルリンHebbel am Uferで世界プレミアを迎え、チェルフィッチュの代表作『三月の5日間』に続く作品として高い評価を受けるとともに、欧州の劇場やフェスティバルのディレクターから注目を集め、新聞、雑誌等でも「社会の病的な核心に肉薄し、最上の可能性を提示した」「まれに見るダンス作品」と評され、賞賛を受けた。
「ホットペッパー」「クーラー」「お別れの言葉」の三つの短編からなる作品。とあるオフィスを舞台としており、昨今の恐慌のあおりを受け、一人の女性派遣社員が契約を打ち切られる、という筋立て。「ホットペッパー」では、契約終了を告げられた女性エリカさんの同僚の派遣社員たちが、雑誌『ホットペッパー』を片手に送別会の会場となるお店を探すさまが、「クーラー」では、派遣社員たちの不安をよそに、職場の冷房の設定温度が低いと不平を言う女と、それに相づちを打っている男、という二人の正規社員の様子が描かれる。「お別れの言葉」では、エリカさんの最後の勤務日の定時就業時刻五分前に、集まった一同の前で彼女が行ったスピーチ。
これまでと同様、「ダンス」と「演劇」というふたつの形式についていくつかの角度から考える、ということを通じて方法論を展開させた。第2幕にあたる、2004年にすでに作られている「クーラー」では、演技としての身体の動きと、音楽との関係で動く身体との、拮抗や齟齬といったことを、ユーモラスに示す。今回新たに加わった他の二幕においても同種の試みを行い「クーラー」とは異なるヴァリエーションを示すことが目指された。
[作・演出]岡田利規
[初演年]2009年
[上演時間]約70分
[キャスト数]6名(男:2, 女:4)
クレジット
[作・演出]岡田利規
[出演]山縣太一、安藤真理、伊東沙保、南波圭、武田力、横尾文恵
[舞台監督]鈴木康郎
[照明]大平智己
[音響]牛川紀政、林あきの