2003年、アメリカ軍がイラク空爆を開始した3月21日(アメリカでは20日)。この日を間に挟んだ5日間における、数組の若者たちの行動を語る戯曲。語るとは、文字通り「語る」であって、俳優たちが役を「演じる」のではないところにこの作品の最大の特徴と魅力がある。
六本木のライブで知り合い、そのまま渋谷のラブホテルに5日間居続けになり、たまに外へ食事に出ては、不思議と渋谷にいつもとは違う新鮮な感覚を覚えるミノベとユッキー。ミノベの友人で、少しばかり電波系の少女ミッフィーと映画館で出会うアズマ。渋谷の町を行進する反戦デモに「ゆるい」感じで参加するヤスイとイシハラ。
舞台に登場する男優1男優2と名づけられた7人の俳優たちのセリフは、たとえば次のようなものだ。「それじゃ『三月の5日間』ってのをはじめようって思うんですけど、第一日目は、まずこれは去年の三月っていう設定でこれからやってこうって思ってるんですけど、朝起きたら、なんか、ミノベって男の話なんですけど、ホテルだったんですよ朝起きたら、なんでホテルにいるんだ俺とか思って、しかも隣にいる女が誰だよこいつしらねえっていうのがいて、なんか寝てるよとか思って、っていう、」このようにして俳優たちは、行動の当事者となって物語を展開するのではなく、入れ替わり立ち替わりながら、彼らから聞いた話を観客に説明するというスタイルで、代話していく。
事件らしい事件の起こらないこの作品で試みられているのは、「現実的な表現」への真摯な模索である。まず、いかにもそれらしく「役を演じる」ことの演劇的な欺瞞を排除し、次に、いかにもセリフらしいセリフの嘘くささを取り去ってみている。
いま現在における、最も誠実な表現の姿勢を突き詰めたはてに現れたこの作品では、「戦争」という巨大な出来事と、ほとんど些末ともいえるリアルな日常を巧妙に対比させ、日本の若者たちの抱く、とらえどこのない現実感を見事に構造化している。
[作・演出]岡田利規
[初演年]2004年
[上演時間]約90分
[キャスト数]7名(男:5, 女:2)
クレジット
[作・演出]岡田利規
[出演]山崎ルキノ、山縣太一、下西啓正、松村翔子、瀧川英次、村上聡一、松枝耕平
[舞台監督]大久保歩
[照明]大平智己
[音響]有限会社 クワット
[宣伝美術]good design company