いま・ここにいる人間のためだけではない演劇は可能か?人とモノが主従関係ではなく、限りなくフラットな関係性で存在するような世界を演劇によって生み出すことはできるのだろうか?
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市では、失われた住民の暮らしを取り戻すべく、津波被害を防ぐ高台の造成工事が行われている。もとの地面から嵩上げされる高さは10メートル以上。そのための土砂は、周辺の山をその原型を留めないほど大きく切り崩すことでまかなわれている。
岡田利規は、2017年に同地を訪れ、驚異的な速度で人工的に作り変えられる風景を目の当たりにしたことをきっかけに、「人間的尺度」を疑う新作の構想を始めた。コラボレーターには、コラージュを主な手法とし、演劇的な視点を貪欲に取り込み創作の領域を拡張させる美術家・金氏徹平氏を迎える。また、昨年からチェルフィッチュが力を注ぐ「映像演劇」も取り入れながら、俳優の身体や言葉のありようにも新たなアプローチが試みられる。人間中心主義から逸脱する先にあらわれる風景とは。演劇をアップデートし続けるチェルフィッチュの最新形。
劇場版『消しゴム山』・美術館版『消しゴム森』を制作
これまでにも美術館やギャラリー空間に「演劇」を持ち込み、その場所がもつ潜在的なドラマ性や空間の新たな手触りを浮かび上がらせてきたチェルフィッチュ。今回は、劇場(演劇空間)と美術館(展示空間)それぞれの空間の特性やナラティブを捉え直し、ひとつの作品コンセプトをふたつの異なる空間にインストールする。また、劇場版・美術館版ともに 〈映像演劇〉 を取り入れることで、作品を多層化するだけでなく、映像/空間/鑑賞者の関係性に新たなレイヤーを提示する。鑑賞者はそれぞれの空間に身を置くことで、自身と作品、そこにある時間や空間と新たな関係を結び直す。それは、「演劇」や「美術」といった領域の境界を融解させる試みでもある。
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ヒトが人間中心主義の外に出るためのパースペクティヴに少しでも感覚のレベルで触れ、接近するための手助けとなるものに、『消しゴム森』という展覧会/上演を、しつらえたい。 そのために『消しゴム森』を、モノとヒトとの、たとえば、ヒトに道具として用いられるモノ/道 具としてのモノを用いるヒト、といった主従関係とは異なる関わりのありようを提示する場、モノとヒトとの関係がそのようなものへと変容していく様子を提示する場にしたい。 モノとヒトとの相違・境界をなめらかにし、溶かしさえしてくれる可能性のあるものとして、映像を取り込みたい。わたしたちが昨年から取り組む〈映像演劇〉と呼んでいる手法を、多用したい。 モノとヒトの関係のさまざまなヴァリエーションを持った複数の異なるパフォーマンスを、演劇というフォーマットを用いて生み出していきたい。つまり、ヒト(鑑賞者)に向けたヒト(俳優)による演劇 、ヒト(鑑賞者)に向けたモノによる演劇、モノに向けたモノによる演劇、どこかに向けたモノによる演劇、など。
岡田利規
人間とモノと空間と時間との新しい関係性。生まれていない/存在していない人間が持っている思考。たくさんの時間とたくさんの人間の思惑によって出来上がった制度や空間をモノが占拠することによって、既存の境界線とは全く別のでたらめな境界線を引き台無しにする。タイムマシンの材料をホームセンターで見つける。など、ある意味で想像することも不可能かもしれないことを、演劇(あるいはチェルフィッチュ)もしくは劇場、彫刻(あるいは金氏)もしくは美術館の制度や空間や手法やコンセプトを駆使して実現しようというのが今回の僕にとっての試みです。 劇場版の 『消しゴム山』 は、存在しないもしくはかつて存在した山を遠くから眺めるようなものであるとすれば、美術館版の 『消しゴム森』 は自らその中に踏み入るものになると思います。森の中は危険がいっぱい。
金氏徹平
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作・演出:岡田利規
セノグラフィー:金氏徹平
初演年:2020年
キャスト数:6名(男3・女3)
クレジット
チェルフィッチュ × 金氏徹平『消しゴム森』
作・演出:岡田利規
セノグラフィー:金氏徹平
出演:青柳いづみ、安藤真理、板橋優里、原田拓哉、矢澤誠、米川幸リオン
映像:山田晋平
照明:髙田政義(RYU)
音響プランナー:中原楽(ルフトツーク)
衣裳:藤谷香子(FAIFAI)
舞台監督:川上大二郎
演出助手:和田ながら
プロデューサー:黄木多美子(precog)
アソシエイト・プロデューサー:田中みゆき
制作アシスタント:遠藤七海(precog)
宣伝美術:れもんらいふ
宣伝写真:守屋友樹
グラフィック:金氏徹平
企画制作:株式会社 precog
ディレクター:中村茜
シニアプロデューサー:平岡久美
チーフアドミニストレーター:森田結香
ツアーマネージャー:水野恵美
海外営業:崎山貴文
教育普及コーディネーター:栗田結夏
主催:
金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]
助成:
文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)/独立行政法人日本芸術文化振興会
製作:
一般社団法人チェルフィッチュ
共同製作:
〈消しゴム山〉 KYOTO EXPERIMENT、Wiener Festwochen、Festival d’Automne à Paris、Künstlerhaus Mousonturm Frankfurt
〈消しゴム森〉 金沢21世紀美術館
企画制作:株式会社 precog
協力:コネリングスタディ/山吹ファクトリー、急な坂スタジオ、京都市立芸術大学
京都芸術センター制作支援事業
本プロジェクトは、『消しゴム山』(初演:2019年10月 KYOTO EXPERIMENT)、『消しゴム森』(初演:2020 年2月金沢21世紀美術館)の両バージョンからなる。